1998年5月
韓国・全州の朝


おじいさんと一緒に夕食を済ませた私だったが、おじいさんの息子さん夫婦にもてなされ、家庭料理をいただくことになった。

テーブルのない部屋で正座をして座っていると、息子さんから「足を崩してください」というような言葉とジェスチャーでうながされ、真似をしてあぐらをかかせてもらう。

おじいさんと息子さんの会話の中に入れてもらうような形で男3人が向かい合う。おじいさんと息子さんの親子は2人で何を話しているのかはわからないけれど、私はただ相づちを打ちながら話に耳を傾ける。考えたらおじいさんは、どうしてアメリカに住んでいるのだろう?

おじいさんの通訳で息子さんから質問をされて答えている最中に、奥さんが料理をお膳台に載せて運んできた。ひとりずつのお膳台にはいくつかの鉢が並べられている。豆のおこわとスープ、キムチとナムルが数種類。これを見て、お膳で出される食事もいいなと思った。つい、部屋にテーブルを置きたくなるものだけど、テーブルがなければ目的に応じたアイテムを使えばいい。シンプルで部屋が広く感じるし、このように出されるのも悪くない。

食事のあと、おじいさんは「うちに泊まるか? それとも旅館へ行くか?」と私に最後の意思表示を耳打ちで求める。時間は夜の11時過ぎ。これ以上ここでお世話になることも、これから全州の街まで送ってもらって、深夜に宿を探す、あるいは宿も世話してもらうことは気が引ける。どちらにしても迷惑だな……。

私が答えに詰っていると、「じゃ、家に泊まり、決まり、な」と、おじいさんに決められてしまう。ズルズルとここまで来てしまったことに私は苦笑いした。

全州の夜、明りを消した部屋の布団の中で、隣で寝ているおじいさんが私の服の中に手を入れてきて目が覚める。お腹の上に手を乗せ、ときどき前後左右に撫で回されて私はビックリ。手を何度も振りほどいても、おじいさんは私のお腹を触ってくる。この行為は韓国人としては当たり前のものなのだろうか? 慣れないスキンシップに私は非常に困惑する。韓国の街を歩いていると、以前から同性同士のスキンシップが韓国人は多いとは感じていた。同性どうしで手をつなぐ若者も多く、腕や肩を組んだり、男どうしで膝の上に座ったりしてベッタリする光景は今まで何度も見てきた。韓国ではスキンシップは親愛の証なのかな?と私は解釈したのだけれど、実際に日本人の私がそれを体験してみると、普段その習慣がないので戸惑うばかり、どう対応したらよいのかわからない。

これはきっと文化の違いで、特に変な意味はないものだろうと自分自身に言い聞かせ、おじいさんのスキンシップの許容を試みる。全州行きのバスの中で、手を握ってきたり、太ももに手を置くなどの行為も、きっと韓国式のスキンシップなのだろうと……。

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