1998年5月
韓国・全州の朝


しかし、私はおじいさんのスキンシップに耐えられなくなっていた。おじいさんが私の体に触ってくることを避け、寝返りを打ったふりをして手を払いのける。でも、私の服の中におじいさんの手がまたすべり込む。何度も何度も繰り返す。相手は無意識なのかそうではないのか……。

きりがないので露骨だけど、私は自分の体を布団でぐるぐる巻くように包まって、おじいさんのスキンシップから逃れることにした。布団に阻まれて私の服の中に手を入れることができなくなったおじいさんの手が、何度か私の布団の上でまさぐるような動きをしたけれど、あきらめたのか、そのあとはもう私の布団の中に手が入ってくることはなくなった。そして蒸して暑い全州の夜が明けてゆく。

気が張ってなかなか寝付けなかった私だったけど、いつの間にか眠ってしまい、ハッとして起床する。時間はまだ朝の4時。部屋の中は明りがつけられ、隣を振り返るとおじいさんは起きていた。私が少し警戒しながら布団の中から体を出して上半身を起き上がらせると、おじいさんは日本への電話のかけ方を教えて欲しいと聞いてくる。まだ陽が昇らない時間で相手にとって迷惑かもしれないとは思ったけれど、おじいさんの注意が私からそらすことができるなら……と、私が日本への国際電話のダイヤルをプッシュして電話の受話器をおじいさんに渡すことに。「親切だね。ありがとう」と言われたけど、その言葉が痛く心に突き刺さった。

電話が終わった後、おじいさんは、「まだ朝早いから寝ていなさい」と声をかけてくれたけど、私は到底、眠る気にはなれなかった。「今日ソウルへ向かうのか?」と聞かれたので、今度は即断即決で「そうだ」と答える私。すぐに「今のは言い方がキツかったかもしれない」とすぐ後悔。キャパシティのなさに自分自身が嫌になる。その後、おじいさんは、「ちょっと出かけてくる」と言って外出してしまい、私はひとり部屋に取り残される。安堵で緊張が解け、私は一気に睡魔に襲われる……。

おじいさんが再び部屋に戻って来たときに、私はちょうど目を覚まして反射的におじいさんの方を振り返る。目が合うと、おじいさんは笑顔で、「妻のお墓へ行ってきた」と言葉をかける。自分を責めて苦しい思いをする私。

気分を変えるために部屋の外へ出て空を見上げる。
 全州の朝は曇っていて、私の心のモヤモヤをどこか映し出しているかのようだった。

<1999年6月掲載>